ドライブシャフトの手入れ

近頃の車検では、ドライブシャフトのブーツと言えば、注目の手入れ項目のように取り上げられているのだが……
そのかいあってか、車検なる作業テーマに接する中で、お目にかかりたくない不具合という位置づけに〜
それと言うのも、ガレージジャッキとリジッドラックによるDIY作業では、ブレーキ等に比べて作業性が悪い。
その為に、ワンタッチ交換的アフターパーツまで多種発売されて、プロの現場を含めて広く普及している程。
そんな現状のドライブシャフトブーツ交換作業に、果たして問題は無いのか?
単に、車検時に不合格となるという事ではなく、TryR2的観点から考えてみたい。

最近の車においては、安易な消耗品というのが、非常に少なくなって、メンテナンスフリーと勘違いする人が現れる始末。^^;
確かに走行距離にもよるが、車検であれ、3年、5年目といった段階では、ケミカルな消耗品が細々と活躍する程度のもの。
ところが、長く大切に乗ろうと考え始めた7年、9年目といった頃には、それなりの有名パーツが出番となってくる。
たとえ走行距離が少ない場合でも、タイヤ交換は避けては通れないし、バッテリーなら2度目の交換となるかもしれない。
走行距離が多い場合なら、タイミングベルトやディスクパッドも出番となる頃だ。
そのような中で、【ドライブシャフトブーツ交換(左インナー、アウター共)……○万円!】と車検費用を力強く底上げしてくれる名脇役〜!!
破れたままでは、決して車検に受からないドライブシャフトブーツの修理だが〜
ブーツが破れたから、ブーツを取替えましょう!で、果たして良いものなのか?

今や、ブーツ交換と言えば、定番メニューのようになってはいるが、ブーツだけが脆いって事ではない。
ブーツは、大切な等速ジョイント(以下ボールジョイント)部分を守る為に、一体として設計された重要な機能パーツなのだ。
それは、カップ麺で言うなら、ビニールパックではなくアルミ箔の蓋その物。卵で言えば、パックではなく、殻その物〜!?
当然、簡単に破れるようには出来ていないし、簡単に交換出来るようにも作られていない。
ましてや、手入れをしたって意味で、張ったりをする為の役回りというのは、もってのほか!
要するに、ブーツだけが悪者ではなく、内部のボールジョイント部分も同様に、しっかりと消耗しているという事。
だから、ブーツの破れを機会に、ドライブシャフト全体の診断をする必要が有るという考え方が正解!

リビルトシャフトに交換という選択肢
 
ブーツはもちろん、何から何までが、ピッカピカのリビルト品!
 
リビルト品と言えば、一昔前なら、ほぼ電装品のコンプリートパーツ(オルタネーター・コンプレッサー・スターター等)に限られていた
ところが、現在では、重要な機能パーツ、しかも、純正品の再生品ばかりではなく、互換品まで流通しているから驚いてしまう
さらに、それらの多くは、ほぼ新品といえる再生品質で、否、純正品を超える性能を謳った新品以上といえる製品まで!
写真の例では、デフ側スナップリングとハブ側ロックナット、さらにABSリングギアまでセットされ、至れり尽くせり状態
それらはどれも、純正品とは異なるパーツで、シャフト軸受部のオイル溝加工も純正には有ったが、これには無い
この点は、純正品をOH(オーバーホール)整備で再生した物が、リビルト品と思っているとドキッとするかも?
 
   
リジッドラックでの作業性については、事前にしっかりと検証する必要が有る
  
写真は、FF車の左ドライブシャフト交換作業であるが、右写真の交換後と比べると分解必要部がよくわかる
ディスクキャリパー(取付部のみ)、ディスクプレート、タイロッドエンド(接続部のみ)、ハブA’ssyなど
ドライブシャフトを引き抜くとトランスアクスルから若干オイルが漏れるので、オイル受けが必要
 
 
スプライン部には、スレッドコンパウンドを塗布
 
 ドライブシャフト交換作業自体は、頭で簡単に理解出来る事だが、DIYでお薦めすべき事ではない
各部の締め付けトルク管理の問題や関連部分の貴重な点検機会である事を重視しなければ
新品よりも断然安価で全てが改善され、作業も早いとなれば、プロに委ねない手はない!
 
ワンタッチ?タイプ(分割式)のブーツ交換
   
某ディーラーで純正指定されている補修用ブーツキットは、便利な分だけ価格も一人前で、1セット5〜6千円ってところ
他にも多くの種類が、ネット販売されているから、要比較!
 
跳ね石や落下物の接触等の事故ではなく、消耗で破れた場合に、ブーツを交換するだけでは良くないのか?
とりあえず、ボールジョイント部から異音が生じていなければ、プロの整備でも当たり前になされている
信頼性も向上し、作業も簡単で絶対的な修理費用も安上がりとなれば、まさにWin&Winの優れ物
しかし、破れた1ヶ所に加えて、予防的に他方も取替えるとすれば、リビルト品の価格と大接近!
ただし、消耗で破れ易い左右アウターのみ交換という選択肢は、単品ブーツ交換だけの取り柄
 
  
特殊形状のブーツは、破れたブーツや古いグリスを取り除いたジョイント部分に、グリスを補充後、分解作業無く取付出来る
 
ドライブシャフトの分解作業無く、さらに、整備性の良い車種や作業性の良い設備を用いれば、タイヤすら外さなくても交換出来そう?
 如何にもDIY向きと思える作りだが、ジャッキアップ状態では、フェンダーエプロン内での窮屈な体勢となり、正確な組付けは難しい
かといって、リジッドラックを掛けてはいても、土間の水平加減等で不安定となるリスクもあり、車両下での作業は避けるべき!
 
 
走行テスト後にブーツを再チェック!合わせ部は、しっかりと密着している
 
短時間での走行テスト後、念の為にジャッキアップをして、合わせ目の様子を確認
幸い、合わせ目は、凸部も凹部も密着しており、一安心〜果たして、いつまで?
2〜3万キロは、耐えるだろうが、それまでに代替えしてしまう例が多いだろう
 
従来からのブーツ交換作業
   
左がアウター(タイヤ側)で右がインナー(デフ側)、インナーの破れ方は、跳ね石や路上障害物などによる事故が原因か?
 
この事例は、FR車でリアドライブシャフトのブーツ破れが発生し、普通のブーツ(一体構造)を使用したもの
一体構造のブーツの場合、交換に際しては、インナー、アウターどちらのブーツであっても分解は必須!
面倒なジョイント部分を分解するとなれば、破れた片方だけの交換で済ませるのは、もったいない事
ブーツの交換作業に際しては、事前にシャフトの打痕の有無やジョイント部の動き具合を点検する
強い打痕や動きに引っかかりやガタ等、均一性や連続性に異状が有れば、シャフトA’ssy交換
 
   
本来の一体型ブーツでは、たとえブーツだけの交換であれ、ボールジョイント部分を分解しなければ出来ない
  
古いブーツは、ニッパーで切断すれば取除けるようなものだが、ブーツバンドはステンレスゆえ、そうは簡単に切れない
緩み止めの爪をニッパーやマイナスドライバー等を使用して起こすと、テコの要領で締められたバンドが緩む
スナップリングを取り外して分解する前に、各パーツへオートポンチ等で合マークを付けておくのが無難
 
   
汚れたグリスがこびり付くハウジング内部、こんな状態で高速走行をしていた事実が、白日の下にさらされる
  
分解したボールジョイント部は、洗浄後にボールやキャリア、ハウジングの傷や偏摩耗等の異常がないか点検する
事前の点検で問題が無かった場合であれば、多少の摩耗は許容範囲内と判断し、ブーツ付属のグリスを充填
これは、汚い物に蓋をするのではなく、新しいグリスが潤滑する事で、元の状態よりは確実に改善されるはず
話が前後するが、この段階で異常と判断し、仮に補修パーツが設定されていたとしても手配すべきではない
もちろん、それらを事前に調査済みで、分解手入れをしているなら言う事は無いが、普通は、リビルト品!
 
   
手間をかけて、インナー、アウター共に、本来の純正ブーツによって交換作業を実施
 
従来どおりの方法でブーツ交換がなされたシャフト。物は違うが、リビルトシャフトとの品質の差は、外見からも一目瞭然〜!
もし、リビルトシャフトが手配出来るのであれば、多少のパーツ代の差よりも、作業性+品質に優れたリビルト品がベスト!
 
 TryR2的成果
 
この状態で見落としたら元も子もない

これは、左前輪の裏側をタイヤを外して覗いてみたところだ。
写真手前の錆びた部分は、ディスクプレートを真上から見た状態であり、中央に見える蛇腹状の物がアウターブーツ。
アウターブーツから延びている丸棒がドライブシャフトであり、写真には写っていないエンジン側(正しくはトランスアクスル側)にインナーブーツがある。
この写真がどうしたって?一見、何の変哲もない、ごく普通の状態を撮ったものと思える。
しかし、実は、走行中のノイズが、僅かに変化したから点検してみたところなのだ。
それで、無事に初期段階で異常を発見できたのだ〜!

では、ブーツが破れた音は、どんな音か?
ブーツブーツでもなく、ザーザーでもなく、グチャグチャでもない。
強いて言うなら、何となく騒々しい。しかも、音の発生源に方向性があるから、或る部分の異状と判断出来る。
例えば、タイヤのロードノイズが、透水性舗装と一般舗装とで違いがわかるように、僅かな透過音の変化を聞き取るわけだ。
だから、当然ながら、普段の音を標準として把握していなければならないし、常にセンサー(耳)の感度は、上げておかねば。
もし、そうでなければ、音の変化にすぐに慣れてしまって、この貴重なタイミングを逃してしまう。
  
ハンドルを少し切ってみると破れた部分がよくわかる

上の写真のような、綺麗な寸断状態の破れ方は、何らかの特殊な要因による事故ではなく、消耗によるもの。
だから、どこが破れてもおかしくない状態の中で、操舵時に、一番開きの大きいスパンが切れたという事。
この段階であれば、早期発見という事で、ブーツ破れによる二次的な不具合を未然に防げたという事になる。
普通の場合であれば、余程運良く、このタイミングで定期点検でも受けない限りは、グリスは飛び散り、内部には雨水が入ってしまうのだ。
そうなれば、ボールジョイントのダメージも大きく、カタカタ、ガキガキ、ゴーゴーといった異音を生じる事で、誰もが異状では?と気付く。

では、TryR2的成果とも言える、早期発見で、二次的な不具合を防げた場合のメリットや如何に?
まさか、飛び散ったグリスを綺麗に掃除しなくても良い! という事だけではないだろう?
それは、次のとおり、しっかりとメリットが有った事は、間違いない!
仮に、二次的な不具合という事で、ジョイント部が損傷した場合では、選択肢なくドライブシャフトの交換が必要となる。
今、車が必要なら、ドライブシャフトを修理するか、新しい車と買い替えるか?の二者択一。
しかも、早く乗りたければ、まさに待った無しのタイムショック状態〜!当然、誤った判断や妥協をしてしまう場合も起こりうる。
また、「車の残存価値が○○であるのに、修理代は△△かかる」という事で、予定外の代替えを勧められるかもしれない。

ところが、グリスも飛び散らず、水も混入していない状態であれば、取り敢えずブーツ交換で済ませるという方法が成り立つ。
もちろん、内部の消耗を解消する手立ては無いのだが、ある程度のグリス交換や補充は可能。
その為、そろそろ二次曲線的に消耗劣化が進みつつある中で、一旦、その角度を緩める事が出来るのだ。
仮に、ブーツが破れる直前の状態、或いは、新品グリスの性能によって、さらに改善された状態となれば、安心して暫くは乗れるだろう。
そうなれば、他方のシャフトについての対応や車の代替えの検討を落ち着いて考える事が出来るはず。
ただ、修理代については、決定的に安く済むかと言えばそうでもなく、むしろ、コストパフォーマンスで考えれば、割高かもしれない。
しかし、そのワンクッションを得る為の出費として、大いに意味のある場合もある。何せ、絶対的な金額は小さいのだから!
例えば、とりあえず、車検の期限までは、安上がりに乗る予定だった場合、また、興味ある新型車の発売を待っている場合など。

もし、真剣に、TryR2の価値を見出そうとするなら、R2ファイル内クルマコラムの「クルマを感じる」 を是非、読み返して欲しい。
また、定期的にピットでオイル交換を実施している場合なら、メカニックにブーツの破れチェック等、一言声を掛けても損はないだろう。


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